バイクレースにてバイクと衝突し転倒して受傷した膝複合靭帯損傷例(MCL・PCL)を紹介する。内側側副靭帯(以下 MCL)は完全断裂していたため、一次修復手術を受けたが、後十字靭帯(以下 PCL)に対しては靭帯再建は行わなかった。 PCL に対して靭帯再建を行うかどうかは意見の分かれるところである。症例の紹介とともに、PCL の再建術に関する議論を文献上から紹介したい。
(初診時)患者: 42才男性
受傷機転: 来院の3日前、オフロードバイクレースにて、他のバイクと衝突し転倒して左膝を受傷。
初診時所見: 歩行時痛あるが歩行可能。内側を中心に腫脹強い。P-tap あり。外反動揺性あり。Reverse Lachman Test 陽性。Posterior Sagging sign 陽性。
X線所見: 膝蓋骨内側に剥離骨片あり
ストレスX線: 外反ストレス撮影にて関節裂隙開大あり。健側 12mm に対して患側 20 mm 、外反角度は健側 8°に対して患側 15°(図1: ストレスX線)
処置: 関節穿刺 50 ml yellow bloodly、内顆部より 30 ml 血腫。大腿から下腿までのギプス固定を行い入院。
診断: 左膝 MCL は完全断裂、PCL 断裂の疑い有り。ACL と半月板はスコープで確認してから、MCL 修復手術を行う予定となった。PCL(ACL 損傷があれば ACL の再建)に関しては、経過を見て問題があれば再建術が必要と説明。(6日後、オペ当日)
腰椎麻酔にて膝関節鏡を先に行った。その後、MCL 修復手術を行い、大腿から下腿までのギプス固定
関節鏡所見: PCL は断裂、ACL は一部出血が見られたが、テンションを確認し正常と判断。外側半月板は正常。内側半月板は中節部から後節部まで辺縁部より剥離され、内側に偏位脱臼していたが、ロッキングなどの症状もないためそのまま温存
MCL 修復手術: 膝内側部を切開し、損傷部を確認した。浅層の内側側副靭帯は脛骨付着部周辺より完全断裂、深層の関節包靭帯も関節裂隙周囲で断裂し、内側半月板の外側部が確認された。深層の関節包靭帯を縫合し(図2: 関節包靭帯縫合)、浅層の内側側副靭帯を引き寄せて、スパイクワッシャー付きスクリュー2本で固定を行った(図3: スクリュー固定) (図4: オペ後X線)。
(オペ後2日)
ギプス装着にて筋力訓練開始。P-setting 指導、翌日より SLR Ex の予定。
(オペ後9日)
ギプス巻き直し。その際に全抜糸。P-tap(-)。
(オペ後3週)
ギプスカットしてシャーレとした。温熱療法開始(バイブラバス)、可動域訓練開始。開始時の可動域は伸展−30°屈曲70°であった。CPM 開始。0°〜80°の設定で、一日5°追加の予定とした。MCL・PCL 用装具(レノックスヒル)の採型を行った。MCL 縫合部脆弱であり、半月板断裂があったため、荷重は接地程度とした。
(オペ後4週)
可動域は伸展−5°屈曲120°、Reverse Lachman Test 陽性。Posterior Sagging sign 陽性。部分荷重開始(5〜10kg )とした。
(オペ後4週4日)
可動域は伸展0°屈曲130°、CPM 中止。完全伸展可能のため訓練器による四頭筋訓練開始。エラスコット2本の包帯固定とした。
(オペ後5週2日)
可動域は伸展0°屈曲140°、部分荷重を15kg とした。
(オペ後6週)
可動域制限なし。屈曲時痛もなし。荷重時痛なし。片松葉杖とした。レノックスヒル装具装着。退院し、翌日より仕事復帰。
(オペ後6週3日)
仕事も順調に復帰でき、歩行時痛もなし。松葉杖除去とした。四頭筋訓練及び装具下にてのハーフスクワットを指導。
(オペ後9週2日)
装具なしにての活動も膝の愁訴は特になし。仕事や長時間歩行時は装具着用のこと。外反ストレスX線撮影を行った(図5: ストレスX線)。MCL はしっかりしていた。Posterior Sagging sign 陽性だが、Giving way 等の不安定感はなし。
膝の動揺性が将来的に膝の痛みや半月板損傷、変形性関節症等につながる可能性を説明した。また、しばらくの装具装着と筋力トレーニングを続けることを指導して治療を終了した。以後、通院なし。
PCL 損傷における MCL 損傷合併例への対処
それぞれの靭帯を単独損傷と考えると、MCL 損傷に対しては完全断裂であっても保存療法で十分と言われており、PCL 単独損傷においても多くのケースで保存的療法が行われている現状がある。
PCL 損傷における MCL 損傷合併例に対してはどうであろうか。MCL 損傷に対しては保存的療法で行い、MCL が治癒すれば PCL 単独損傷として扱う、などということにはならないであろう。複合靭帯損傷であるため、最低でもどちらか(MCL か PCL)の機能不全は確実に押さえなくてはならない。
仮に MCL 損傷が II 度の場合は、 保存的療法にて MCL が治癒する可能性も大きく、外反動揺性は押さえられ、PCL 単独損傷と同様の扱いをすることが可能と思われる。MCL 損傷が III 度の完全断裂の場合は、手術的に MCL を修復する必要があると言われている 1) ことから、今回の症例に対して、MCL 損傷の一次修復手術を行った。
PCL 損傷に対して修復術もしくは再建術を優先して行うべきとの考えもあるが、手術の難易度が高いこと、一次再建術は受傷後2〜3週以降に行うこと、また十分に可動域が確保されてから行われることが一般的となっているため 2) 、新鮮例に対しての処置としては、まず MCL をどうするかが優先されるべきではないかと思われる。
それでは MCL が治癒したあと、PCL 不全に対して再建術を行うかどうかは専門家でも意見が別れるところである。PCL 不全による高度の不安定性が存在する場合、もしくは不安定性による症状が存在する場合は再建術の適応になると考えられるが、自覚的機能障害の少ない PCL 単独損傷に対して再建術を行うかどうかは専門家の中でも必ずしも一致していない。PCL 単独損傷、もしくは側副靭帯断裂の合併例にて側副靭帯が治癒したPCL 損傷に対して、保存的に行うべきか再建術を行うべきか?、どのような条件では再建術を行うべきか?、PCL 単独損傷を保存的にみた場合に長期的予後は?などの疑問点に対する専門家の意見を紹介したいと思う。
PCL 単独損傷において保存的療法を優先する理由として、PCL 単独損傷は ACL 損傷と異なり回旋不安定性は見られないことから自覚的に機能障害を訴えることは少ないこと 3) 、短期的には機能的予後が良好であること 2) 、PCL 再建術が保存的療法より良好な成績をあげる段階に達していないこと 2) 、修復術を行っても Posterior Sagging が残存することが多いこと 4) 、などが言われている。スポーツ競技者においての PCL 単独損傷は、厳密な徒手検査や画像診断により条件を厳密に特定し、重度の軟骨障害等は早期関節鏡で観察することで、保存療法が可能でスポーツに復帰できるという意見もある 5) 。
次に、PCL 単独損傷において条件によっては再建術が必要とする意見を紹介したい。原ら 6) は、膝後方不安定性が大きくなければ大腿四頭筋訓練を含めた保存的療法を優先し、不安定性が大きければ(脛骨後方移動10〜15 mm 以上)3〜4週後に PCL 再建術が薦められるとしている。水島 1) は、ACL ・ PCL 断裂例に ACL のみ再建するより、PCL も同時再建した方が成績が良好であったことから、PCL 単独損傷に対しても膝関節鏡視下手術の経験がかなり豊富な術者であれば、可能なかぎり鏡視下 PCL 再建術を行った方がより良いと報告している。山岸 7) は、後方動揺性が大きく活動性の高い運動選手には PCL 再建術の適応があるが、活動性の低い患者であれば保存的療法を行うべきとしている。また、後方動揺性による症状のある患者で、PCL 装具を作成し症状が減少したり鎮静するならば、再建術が推奨されるとしている。
最後に、PCL 単独損傷を保存的療法にて長期経過観察した報告を紹介したい。Dandy ら 8) の報告では、長期経過観察の結果から保存的療法は良好としながらも、Long gait で70%、walking step down で50%の患者が痛みを訴えており、その症状は早くて受傷後3ヶ月から生じ、5年後ではさらに痛みが増加していくとしている。脛骨の後方移動により PF 関節面と内側関節部に対して圧迫力とひっぱり力が増すことによるとしている(保存的療法は良好という結論は矛盾している)。Keller ら 9) の報告では、保存的療法(筋力トレーニングを含む)を行った PCL 単独損傷の患者40例に対し、長期追跡調査(平均6年)をアンケートにて行った。65%に活動レベルでの制限があり、43%に歩行での問題があったとしている。
PCL 単独損傷、もしくは側副靭帯断裂の合併例にて側副靭帯が治癒したPCL 損傷の対処は、患者のニーズ、活動性、動揺性や筋力の状態などを考慮し、短期的予後と長期的予後を可能なかぎり把握して対処すべきと思われる。
・PCL 損傷を伴った MCL 完全断裂例に対し、MCL の一次修復手術を行った症例を報告した。
・Posterior Sagging は残存したが、特記すべき症状はなく良好な成績であった(長期的には調査しておらず不明)。
・PCL 損傷における MCL 損傷合併例への対処を考察し、PCL 単独損傷に対しての治療法、再建術を行う条件、保存的にみた場合の長期的予後について専門家の意見を紹介した。
1) 水島斌雄: 後十字靭帯損傷を伴った膝関節複合靭帯損傷、整・災外39: 407-410、1996
2) 遠山晴一ほか: 膝靭帯損傷のリハビリテーション、整・災外39: 411-419、1996
3) 富士川恭輔ほか: 膝関節靭帯の機能解剖と不安定性の病態、整・災外39: 371-380、1996
4) 鳥巣岳彦(編): 整形外科痛みへのアプローチ 膝と大腿部の痛み、南江堂、東京、1996
5) Shino K; Horibe S; Nakata K; Maeda A; Hamada M; Nakamura N.: Conservative treatment of isolated injuries to the posterior cruciate ligament in athletes. J Bone Joint Surg Br 77:6, 895-900, 1995
6) 原 邦夫ほか: 膝後十字靭帯新鮮損傷の治療方針 -スポーツ外傷を中心に-、整・災外39: 389-396、1996
7) 山岸恒雄: 膝後十字靭帯損傷、MB Orthop 9(10): 98-106、1996
8) Dandy DJ, Pusey RJ.: The long-term results of unrepaired tears of the posterior cruciate ligament. J Bone Joint Surg Br 64(1): 92-4, 1982
9) Keller PM, Shelbourne KD, McCarroll JR, Rettig AC.: Nonoperatively treated isolated posterior cruciate ligament injuries. Am J Sports Med 21(1):132-6, 1993