今回取り上げた RSD / CRPS type I は、外傷を扱う柔整師においては遭遇する可能性の高い疾患である。この疾患の初期症状は、例えば手関節等の外傷などの際、固定を除去する時期になっても手指の腫脹・浮腫が長期に持続し、手指の他動的屈曲がある程度可能(程度差有り、不能の例もあり)であるにもかかわらず、手指の屈曲(自動運動)を行わせようとしても、手指が振戦したり、力が入らなかったりと、屈曲が思うように出来ず、時に異常な運動時痛(異性覚)や知覚異常、発汗の異常などがみられる。このような場合、RSD / CRPS type I の症状が疑われるが、その後、通常の経過においても、次第に浮腫が硬くなっていき(硬性浮腫)、少なからず線維性拘縮へと進展していくことから、適切な処置を施さなければ患肢全体が廃用化するとも言われている。接骨院などにおいては、初期の段階で必ず専門医へ紹介すべきであろう。
しかし、目の前の症例がこの疾患(RSD / CRPS type I )であると確信を持って見分けるには、この疾患への深い理解と、そしてなにより経験が必要である。
近年、痛みに関する分子生物学的解明が進み、様々な伝達物質やそれらの受容体が発見され、科学的にとらえられるものになってきた。古典的な伝達物質に加え、各種ペプチド性伝達物質の局在や共存が複雑な神経の営みを作り出しているようだ(図1a, b 参照)。臨床症状を分析する上で、痛みの成分や痛覚の経路について解剖学的生理学的基礎を知ることは重要である(図2a, b 参照)。(図1a:主な神経伝達物質) 17) (図1b :複数の神経伝達物質の同一細胞内における共存) 17)
(図2a:痛みの成分) 14) (図2b:痛覚に関与する経路) 14)
医科においても、自信と責任をもって診断・治療できる機関は多くはないであろう。RSD / CRPS type I の発生機序の解明、治療法の確立はいまだされていないことから、文献によっても見解に一致がみられず、過去の古い総説をそのまま引用している書物も少なくない。最近の臨床的な考え方を文献より紹介し、柔道整復師はもとより、外傷を扱う医療職にある方々の理解を少しでも深めていただければ幸いである。
なぜ RSD / CRPS type I と、二つの病名を併記しているのかを理解するためには、過去において様々な名称を付けられてきたこの病気の歴史を理解することが重要である。以下、年代順に列記する。1867年 Mitchell は現在 CRPS type II と言われている疾患を、「末梢神経損傷後の四肢の激しい焼けつくような疼痛を特徴とする慢性疼痛性症候群」いわゆるカウザルギー(ギリシャ語で灼熱痛、causalgia)と名付けた。アメリカ市民戦争のさなか、この gun shot injury(銃創)後の激しい痛みについて、最初に記載したのが1864年と言われる 1, 2, 3)。
1900年 ドイツの医師 Sudeck は足部外傷後や手術後に過剰な炎症反応がおき、結果として骨萎縮が遅発性に生じることを報告した 1, 3)。ドイツ語圏では現在においても RSD という病名よりも広く用いられているようである 2)。我国内では一般に外傷後に生じる骨萎縮を Sudeck 骨萎縮と呼んでいる。
1946年 Evans は Sudeck 骨萎縮および類似の病態を反射性交感神経性ジストロフィー (reflex sympathetic dystrophy: RSD)と名付けた 2, 3)。その理由は、この疾患の特異的な症状が、疼痛よりも発赤・腫脹・発汗異常・萎縮等の交感神経の関与が大きいと考えたからである。 3)。
1947年 Steinbrocker は肩の有痛性運動障害を持った患者の中に、同側の手の腫脹を伴う者がいたことに注目し、肩手症候群(shoulder-hand syndrome) という呼称を用いた 1, 3)。
1953年 Bonica は、名著「Management of Pain」の中で causalgia や肩手症候群などを RSD (major, minor) にすべて含め、交感神経が関与する四肢の疼痛疾患の総称名としたことで有名である 1)。
1977年 Lankford は Bonica の分類では疾患名が多すぎ、症状と分類の不一致などの問題点があることから、RSD を causalgia (major, minor)、traumatic dystrophy (major, minor)、shoulder-hand syndrome の5つに分類した 3)。
1986年 Bonica が名誉会長を務める国際疼痛学会 (IASP) の分類用語委員会は、causalgia と RSD とを明確に区別した。正中神経などの混合神経の不全損傷に起因した疼痛疾患を causalgia とし、それ以外の交感神経が関与する疼痛疾患を RSD と一括することを定めた。肩手症候群は後者に分類された 1, 2, 3)。
同年、Roberts は RSD に対して自律神経系の薬やブロックによって疼痛が改善するものを sympathetically maintained pain (SMP) 交感神経依存性疼痛として区別することを強調した。また、効果がないか、症状が増強するものを sympathetically independent pain (SIP) 交感神経非依存性痛とした 3, 8)。しかし、これらの分類はペインクリニック的観点からの分類であり、交感神経の関与は時期によって変化するとの考えから、RSD の鑑別や治療に混乱を与えるとし、中には、この用語は使用しない方が得策と考える整形外科医もいる 2)。
1994年 国際疼痛学会 (IASP) は、RSD と呼ばれる疾患の中に交感神経非依存性痛 (SIP) が存在することから、1986年の分類を改定し、RSD を複合性局所疼痛症候群タイプ1 (Complex Regional Pain Syndrome type I: CRPS type I) とした 1, 2, 3)。type I は神経損傷がないものとし、type II を神経損傷と関連する causalgia としている。この分類では、交感神経の関与の程度について考慮はされているが、交感神経の関与は明らかでないという曖昧な表現を使用している 2)。
病期によって交感神経の関与に差があること、交感神経ブロックの効果が病期によって差があることなどから、整形外科医の間では RSD に変えて CRPS とすることには異論が多い 2, 3, 8)。よって、この分類はまだ一般整形外科医に浸透していない。今後どのような言葉に淘汰されていくのか、分子生物学的解明に依るところが大きく、しばらく時間が必要のようである。
現段階では、RSD / CRPS type I の診断は主に臨床的に行われる。しかし、症状はそれぞれの症例において多様であり、変化しやすいため容易ではない。近年、いくつかの診断基準が提唱されているので紹介する。検査法および補助的診断については後述する。Kozin ら の診断基準 (1981年) は、四肢遠位部の疼痛、圧痛、血管運動障害(皮膚温・色調の変化)、腫脹の有無によって、definite(明確な)・probable(有望な)・possible(可能性がある)・doubtful(不確かな) に分類した。臨床上、頻繁に利用され、有用とされている 3)。
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(Kozin ら のRSD 診断基準) 3, 8, 11)
・definite RSD: 四肢の疼痛と圧痛、血管運動障害の症状と徴候(皮膚温・色調の
変化)、四肢の腫脹の3つ(全て)が存在する状態(皮膚栄養障害が通常存在)
・probable RSD: 四肢の疼痛と圧痛があり、血管運動障害の症状と徴候、または四
肢の腫脹がある状態(皮膚栄養障害がしばしば存在)
・possible RSD: 血管運動障害の症状と徴候、または四肢の腫脹がある状態。疼痛
はないが軽い圧痛はあるかもしれない(皮膚栄養障害がときに存在)
・doubtful RSD: 四肢に説明できない疼痛と圧痛がある状態
------------------------------------------------------------------Gibbons らは (1992年) 、各症状を点数化して合計点による評価を行うことを提案した。以下に紹介する。
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(Gibbons's RSD Score) 3, 8)
1) Allodynia or hyperpathia(アロディニア or 痛感増幅、痛覚過敏)
2) Burning pain(灼熱痛)
3) Edema(浮腫)
4) Color or hair growth changes(皮膚・発毛の変化)
5) Sweating changes(発汗異常)
6) Temperature changes(皮膚温の変化)
7) Radiographic changes(X線上の変化:脱灰像)
8) Quantitative measurement of vasomotor/sudomotor disturbance
(血管運動障害/発汗障害の定量的測定)
9) Bone scan consistent with RSD(RSD に合致した骨シンチグラフィー所見)それぞれの score につき、+なら1点、±なら0.5点、- なら0点として、3点未満な
ら RSD ではなく、3〜4.5点では RSD の可能性あり (possible RSD)、5点以上なら
RSD が有望 (probable RSD) と診断する。
------------------------------------------------------------------最新のもので、1994年に IASP が CRPS の概念を提唱した際に、同時に診断基準を提示した。この診断基準は、臨床上の診断を統一することを意図したものである。CRPS は不明な点が多いことから、同一の診断基準を用いることで病態の研究、治療法の開発、治療の効果判定に役立てようと作成された。CRPS(複合性局所疼痛症候群)という名称からも、疼痛が必須条件である。疼痛のほとんどない症例が除外されるという問題点もあり、逆に痛みがあればより多くの症例が含まれてしまい、特異性が低いとも言われている 3)。例えば、痛みが通常より強く浮腫を伴っていれば、CRPS type I ということになる。
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(IASP による CRPS type I の診断基準) 3)
1) きっかけとなった侵害的な出来事や動かさなかった(固定した)原因がある
2) 持続する疼痛があるか、アロディニアもしくは痛覚過敏の状態であり、疼痛の始まり
となった出来事に不釣り合いであること
3) 経過中、疼痛のある部位に、浮腫、皮膚血流の変化、発汗異常のいずれかがある
4) 疼痛や機能不全の程度を説明可能な他の病態がある場合、この診断は当てはまらない
注意:診断基準の2〜4を必ず満たすこと
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診断は臨床的に行われることを前述したが、現在は機器の発達と共に、補助的に行われる検査の有用性が高まってきている。1) 疼痛の程度:visual analog scale (VAS) 、pain scale など
2) 知覚測定:neurometer(末梢神経検査装置)
3) 腫脹・浮腫の程度:周囲径、圧痕の有無、プレチスモグラフィー(指尖容積脈波)
4) 発汗の程度:櫻井式測定紙など
5) 皮膚血流状態:サーモグラフィーやレーザードップラー血流計
6) 骨萎縮の程度:単純X線撮影、骨密度測定その他、診断根拠として有用といわれているものに、三相性骨シンチグラフィーがある。骨シンチグラフィーとは RI(放射性同位元素、ラジオアイソトープ)を体内に投与して骨破壊や骨形成のある部位を特定する検査。骨破壊病変や骨形成病変に対して非常に敏感に反応する。特にテクネシュウムを静注して3時間後に撮影された、手指の delayed image において、橈側に偏位して集積する現象は RSD において特異性が高いといわれている 1)。橈側偏位の機序については後述する。
※以下のそれぞれの報告に使用されている母集団が、RSD / CRPS のどの診断基準で選択されたのか、また CRPS type II、肩手症候群などを含んでいるのかなどが不明であるため、参考程度として記載する。(疫学)
戦争によるカウザルギーを除くと、女性は男性の3倍高く発生するとの報告(koman 1999) 3)もあるが、一般的に性差はないとされている 1, 11)。小児にも起こり、幅広い年齢に発生するが、30〜55歳(平均45歳)が好発年齢である 1, 3)。左右差はない。両側発症例はあるが、多くは片側優位を示す 1)。喫煙者の割合が高い(koman 1999) 3)。(発症要因)
外傷患者約2000人に1人などとする報告 11)や、骨折後の1〜2% に発生するという報告 3)、橈骨下端部骨折の 20〜40% に RSD が発生するとの報告(koman 1999) もある。主に手関節周辺の外傷が多い 2)。外傷の程度は、骨折や脱臼などの比較的大きいものから打撲、捻挫、挫創などの軽微なものまで様々である 3)。生田の報告 8)では、RSD 86例中16例(18.6%)が医原性(ope や注射など)であったとしている。外傷以外の要因として、脳血管障害 (CVD) に肩手症候群が合併することは早くから神経内科では注目されていた。また、脳梗塞後の肩手症候群は文献的に 10〜20%の頻度で発症するといわれている 1)。素因に関しては、Lankford の報告 (1990) 2)で詳しく述べられている。遺伝的素因・交感神経緊張症 (手足の発汗亢進)・冷え性・片頭痛・赤面症・情緒不安定・依存性高い・愁訴が多彩なタイプなど、これらの人は疼痛閾値が低く、過剰に痛みを訴えるとしている。また、高齢者や更年期の女性に生じやすい理由として、動脈硬化による大脳の変性や、四肢末梢の循環障害、内分泌の変化による浮腫などが、患者の素因に加重されるとしている。このように、素因として性格などとの関連がいわれているが、証明はされておらず、他の慢性疼痛患者同様に罹患期間が長くなることで、神経症やヒステリー、うつ状態などの精神的異常が生じるといわれている(真下、日本臨床、2001) 3)。
発症機序については、多くの研究者・臨床家が考察をしているが、いまだ仮説の域を脱していない。最近の痛みの研究領域では、分子生物学的手法が導入されており、痛みの物質レベルでの解明という点で、大きな進歩がみられている。多くの仮説の詳細については割愛するが、現段階では、障害組織レベル・末梢神経レベル・脊髄レベル・脳レベルでの異常が言われている 11, 12)。これらの各レベルの痛覚伝導路に生じると想像される変化を大別すると、1) 求心性信号の異常増加、2) 感覚神経細胞の感受性増大や感作、3) 神経回路の再構築による異常回路の形成、4) 疼痛抑制系の低下などが挙げられている 12)。(図4:痛覚伝導路に生じると想像される変化) 11) (図5:侵害刺激の受容、信号化、伝達) 15)
多くの整形外科医は、RSD の命名者である Evans (1946) が主張した「異常な交感神経反射によって悪循環が形成される」という説を、この疾患の病態のアウトラインとして頻繁に利用している 2, 5, 8, 9, 10) 。しかし、ペインクリニック系の学会である国際疼痛学会 (IASP) が定義した CRPS type I の機序としては、必ずしも交感神経系の異常に起因しているのではなく、複雑かつ多岐に及ぶとし、あくまでも不明としている 6)。言い換えれば、交感神経系の機能亢進が疑問視されたことで、CRPS type I への病名変更に至っていると考えられる。
内西ら 2)は、異常な交感神経反射による悪循環の形成について、典型的な経過をわかりやすく述べているので以下に紹介する。
(異常な交感神経反射による悪循環形成について) 2)
正常では、身体の一部に外傷を受けると、正常な交感神経反射によって四肢の血管が収縮する。この反射は出血を止め、余分な腫脹を防ぐための必要な正常反応であり、外傷の治癒とともにこの反射は消退する。外傷による trigger 刺激が消失してもなお、RSD の患者ではこの反射が消退せず、継続して働き続けるため、交感神経亢進状態となる。そのために末梢組織に局所的虚血(低酸素状態)が生じ、さらにそれが、より強い持続的な疼痛刺激として異常な交感神経反射が作動することになり、悪循環(vicious cycle)が形成され、 RSD の発症に至ると考えられる。(初期は筋の血流が低下し、代償的に皮膚・骨の血流は増大する。末期は全血流低下をもたらす。)余談であるが、Lankford (1990) は、RSD 発症要因として (1) RSD になりやすい素因がある人が、(2) 外傷による trigger 刺激を受け、(3) 異常な交感神経反射が発生する、という3つの要因を挙げている 2)。
Lankford (1982) は RSD 症状を基本症状と二次症状に分類している 3)。基本症状は、疼痛・腫脹・関節拘縮・皮膚変色であり、二次症状は、骨萎縮・発汗変化・皮膚温変化・栄養障害・血管運動調節の不安定・手掌線維症と述べている。
IASP の CRPS チェックリスト (1994) 3)による CRPS type I の症状は、焼けるような痛み・知覚過敏・皮膚温の非対称・皮膚色調の変化・発汗の変化・浮腫・爪の変化・毛髪の変化・皮膚の変化・筋力低下・振戦・筋緊張異常・関節拘縮・痛覚過敏・Allodynia である。これらの症状は、罹患部位から広範囲に拡大し、遠位から隣接する近位、まったく離れた部位への拡大、対側への拡大がいわれている。(特異的な症状) 1)
上肢の RSD において、特異的な症状についての記載があるので紹介する。初期の運動障害についてであるが、手指のこわばり(肩についても)の原因を共同筋と拮抗筋の同時収縮によるものとし、そのこわばりは橈側偏位しているというものである。
IASP による CRPS チェックリスト (1994) には、運動障害について筋力低下・可動域の減少・振戦などと記載しているが、これは特異性が低く臨床に役に立たないとしている。IASP はペインクリニック関連のメンバーが主で、運動障害より痛みに興味があるためではと推測されている。
手指のこわばりの原因であるが、手指の関節痛により手指を屈曲しようとすると、生体防御反応が働き、PIP DIP 関節の伸展機構である骨間筋、ときに総指伸筋(EDC) が筋攣縮することを筋電図で証明している。(図6:グリップ時の動作筋電図)
手指のこわばりを認めたら、早期に Guyon 管周囲での尺骨神経ブロックを行うことで、骨間筋の筋攣縮が消失し、手指の屈曲が容易になると報告している。また、診断的価値も高いとしている。
肩の RSD における共同筋と拮抗筋の同時収縮であるが、挙上(外転)の際に拮抗筋である大胸筋・広背筋に異常収縮が見られる。(図7:肩外転時の筋電図)
橈側偏位についてであるが、尺側の手指より橈側の手指の方がこわばりが強いとしている。その理由として、RSD は脊髄の神経細胞の異常な活動を介して発症するとされ、症状の可逆性から考えると、脊髄灰白質の機能的かく乱と推測されている。その影響は脊髄灰白質にある運動・知覚・自律神経細胞に及ぶと考えられ、運動神経細胞のかく乱が錐体路支配の濃厚な橈側手指に及ぶと推測している。
橈側偏位の現象は、三相性骨シンチグラフィーでの集積現象(骨血流増加により骨の異化が亢進)や、サーモグラフィーにおける皮膚温上昇(皮膚血流増加)として確認されている。
RSD / CRPS type I の病期分類については、RSD をレビューした文献の多くに記載がある。引用されている病期分類は、1947年の Steinbrocker 1)、1953年の Bonica 6)、1977年の Lankford 2, 3, 6, 7, 8, 9, 11) などがあり、Lankford の分類の引用が圧倒的に多い。参考までに Lankford の分類を以下に紹介する。------------------------------------------------------------------
(Lankford の病期分類) 2, 3, 6, 7, 8, 9, 11)
第1期(急性期:3カ月)
外傷相応の疼痛であるが、次第に灼熱痛に変化し運動で疼痛増強。皮膚は発赤し、皮
膚温上昇、柔らかい腫脹(浮腫)となる。のちに皮膚は冷たくなり(チアノーゼ様)
発汗が亢進する。6週を過ぎると抜き打ち状の骨萎縮が出現する。第2期(亜急性期:3〜9カ月)
疼痛はさらに増強し広範囲となる。腫脹(浮腫)はかたく固定したものとなり、関節
拘縮を起こしてくる。皮膚は蒼白となり、乾燥し、次第に皮膚の萎縮が始まる。骨萎
縮は全体的に均一化してくる。第3期(慢性期:9カ月〜2年)
疼痛はやや緩和される場合があるが、関節拘縮と皮膚萎縮が進行し、関節の可動性は
消失する。爪は屈曲変形し、指尖は先細りとなる。骨萎縮は増強し、患肢全体が廃用
化してくる。
------------------------------------------------------------------それぞれの病期分類を紹介した論文において、発汗についての記載が異なっている。第1期の後半において、皮膚は冷たくなり発汗が亢進するというものもあれば 1, 3)、皮膚が発赤・皮膚温が上昇して発汗が亢進するというものもある 2, 8)。どの病期分類も初期には発汗が亢進し、次第に乾燥するという意見は共通している。しかし、初期とはいつのことなのかが明確でなく、症状も個人差があることから、表現にばらつきがみられるのではないだろうか。
この3つの病期は広く受け入れられてきたが、近年、3つの病期の連続性については否定的な意見がある。 なぜ否定的かを考察すると、診断基準の違いによって症例の母集団が多く(軽症例が多く含まれる)なったり、少なく(重症例のみ)なったりとばらつきがみられること、また、初期の適切な治療により、病期が進行しないケースが多いことが考えられる。多くの症例は第2期へ進行しないで治癒する例が多いという報告 8)や、外傷後の急性期を過ぎても痛みと腫れが続く時期を pre-RSD とし、この時期の適切な対応にて RSD に移行しない症例が多く存在したとする報告もある 6)。
治療の適切さや、治療開始時期などによって、個々の症例における症状に影響をあたえるのは当然であろう。これらのことから、病期分類における3期の存在は、症状の差異でもあることから否定はしないが、必ずしも3期へ進行するものではないことを理解しておくべきであろう。参考までに母集団が多い論文を紹介する。症例を選択する診断基準に交感神経症状の有無を考慮しなければ、自然と交感神経の関与に否定的になるのは当然であろう。Veldman らの報告 (1993) 13)では、829人の RSD 症例を検討した結果、早期所見は交感神経系の障害は少なく、炎症性の反応が主であったとし、組織の栄養不良と萎縮は後期の所見として見られたが、全体の中では小さな割合であり、3つの病期の存在は証明されなかったとしている。RSD の病態を、損傷、手術などによる局所の異常に増強した炎症反応であるとしている。
内容の詳細であるが、RSD の早期、筋肉を動かすことにより増悪する局所の炎症を特徴とした痛み93%、知覚低下69%、知覚過敏75%が認められ、時間の経過とともに組織の萎縮、不随意運動、筋肉の攣縮および pseudoparalysis(偽性麻痺:伝導速度には異常がないが知覚、運動麻痺がみられる)が起こる例もあったとしている。振戦が49%、筋共調運動不能が54%、発汗過多等の交感神経の症状は見られない例が多く、診断の決め手にはならないと考察している。
RSD / CRPS type I に対する治療法は、報告者が麻酔科や整形外科、心療内科など、所属している診療科によって様々なものが報告されている。治療において重要なのは、早期発見・早期治療であることは、共通した認識であろう。そのためにも、この病気の歴史や病態、診断法などをまず理解することが重要である。治療は疼痛を緩和し、悪循環を停止させることだといわれている。悪循環を断つと一口にいってもいろいろある。除痛、交感神経遮断、抗炎症、浮腫の軽減、拘縮の除去などがあり、治療開始時期の違いによって症状も様々であることから、柔軟に対応することが求められる。効果があるとされる代表的な治療を以下に紹介するが、プラセボを除外する形での効果判定は行われておらず、有効性の再評価が必要であろう。(非ステロイド系消炎鎮痛剤 NSAIDS) 5, 8)
発生初期、痛みが悪循環に陥る前の段階で投与されれば、プロスタグランディン合成阻害に働くが、抵抗を示すものも多い。(図8:アラキドン酸カスケードと抗炎症薬の作用部位) 16)
(早期ステロイド療法) 6)
古瀬の報告では、外傷後の急性期を過ぎても痛みと腫れが続く、もしくはいったん軽快した痛みが再度でてくるなどの Pre-RSD に対し、ステロイドの経口投与を行い、1990年〜1999年までの間、 RSD に至った例はないと報告している。(参考までに:1999年における1年間の症例は31例)
初期 RSD に対しては、ステロイドの局所静脈内投与を薦めている。この方法では、94例中85例に満足できる結果が得られたとしている(1987〜1999)。しかし、浮腫が明らかな症例では期待できるが、拘縮が完成された症例は困難であると述べている。(ノイロトロピン療法) 5, 8, 11)
ワクシニアウイルス(paravaccinia virus)接種家兎炎症皮膚抽出液(ワクシニアウイルスを接種した家兎の炎症皮膚組織から抽出分離した非タンパク性の活性物質)。作用機序は不明であるが、痛覚過敏の改善作用は、下行性抑制系の機能低下の改善に基づく鎮痛作用であると示唆されている。国内では RSD の初期に有効であると報告されている。NIH(米国国立衛生研究所)は抜歯による急性痛と慢性の神経因性痛、特に RSD への治療効果に注目し、2000年10月より臨床試験を開始。ノイロトロピンは日本臓器製薬が製造し、現在日本と中国で販売されている。現在は腰痛症や頸肩腕症候群等の疼痛疾患、皮膚のかゆみ、アレルギー性鼻炎、帯状疱疹後神経痛などの治療に用いられている。(交感神経遮断薬) 5)
経口用グアネチジン(国内ではレセルピンが多い)は強力な降圧剤として利用されている。副作用にめまいや倦怠感、眠気、起立性低血圧があり、十分注意する。(Drug challenge test) 4)
Drug challenge test とは、鎮痛に関与する薬剤を少量ずつ静注して反応を観察するテストである。例えば、交感神経依存性疼痛 (SMP) と交感神経非依存性痛 (SIP) とを鑑別するために、フェントラミンテストを行い、交感神経ブロックが有効かを判断する。モルヒネテストは侵害受容性疼痛かを判断、バルビツレートは中枢神経の機能異常によるものを判断、その他、ケタミンやリドカインなど様々な方法が検索されている。小川 4)の報告では、この方法を50例の RSD 患者の治療に行い、約38%が疼痛の著明な減少をみたとしている。(図9:慢性疼痛治療の流れ図) 15)(星状神経節ブロック: SGB) 1, 8, 11)
現在ではペインクリニックで幅広い疾患に利用されている。星状神経節(頚胸神経節)近傍に局所麻酔剤や抗炎症剤などを使用し、星状神経節が支配している臓器の交感神経の機能を抑え、痛みを治療する。しかし、注射により神経や血管を損傷すると重大な合併症を発生する。最近はレーザーや近赤外線を星状神経節に照射することで除痛に効果があるとする報告 8, 9)もある。(硬膜外ブロック) 1)
主に疼痛管理に用いられる。頚部・胸部に持続硬膜外カテーテルを留置し、局麻剤注入を行う。(胸部交感神経遮断術) 5)
外科的にて胸部交感神経を切除。他の治療が無効で、フェントラミンテスト陽性、星状神経ブロックが確実に効くけれども、効果持続時間が短い症例に対して行う。(理学療法) 7, 8, 9, 11)
理学療法が治療の主体との意見が多い。関節拘縮を可能なかぎり少なくするため、早期に開始することが望まれている。疼痛や腫脹を増強させないように、時間をかけゆっくりと愛護的に行うのが基本である。著者自身の経験では、浮腫の徹底的な除去と、可能なかぎり早期の持続伸張による手指の ROM 訓練を行うことを薦める。持続伸張は、初期はスポンジを握らせ、エラスコット等の包帯で屈曲を保持させる。指の屈曲が進行すれば、屈曲バンドやゴムバンド等で自宅にても行わせている。・各種温熱療法(渦流浴・交代浴・超音波・マッサージなど)、
・浮腫の除去(患肢の高挙・圧迫包帯・空気マッサージ器など)
・可動域訓練(自動運動・ハンドセラピー・屈曲バンドやエラスコット、ハンドスプリント等による持続的伸張・筋力強化など)
・その他(TENS・レーザーや近赤外線などの光線療法)特に交代浴(温水42℃を3〜4分、冷水10℃を30秒〜1分、4〜5回繰り返して温熱で終了)は、温熱効果、除痛効果に優れているといわれている 1, 5, 8)。
手指の自動運動の基本は、深・浅指屈筋を手内筋収縮より分離させて行うため、MP 関節を保持しながら、PIP・DIP 関節を屈曲する方法がいわれている 1)。
手内在筋拘縮(intrinsic contracture)を防ぐ、いわゆる intrinsic plus hand(MP 屈曲位、PIP・DIP 伸展位)となることを防止するため、MP 関節の伸展方向へのストレッチや、MP 関節過伸展位での PIP・DIP 関節屈曲ストレッチを行う必要がある(intrinsic tightness test)。
前述したが、手指屈曲の補助(骨間筋の筋攣縮を消失させるため)として Guyon 管周囲での尺骨神経ブロックを利用する方法もある 1)。(向精神薬) 5, 8)
患者の不安やいらだちを少しでも和らげようとする意図で、抗不安薬や抗うつ薬などが処方されることもある。
RSD / CRPS type I の歴史から治療までをまとめて紹介した。この疾患は、通常の治療を行っている最中に、患者の異常な反応から気付かされることが多い。長期にわたり手指の機能が奪われることから、患者の苦痛は計り知れないものがある。治療を継続するにあたり、患者側にも疾患に対する正しい理解が必要であろう。そのためにも治療者側は、より一層の深い理解と情報収集の継続性が求められる。疼痛に関する受容体や化学伝達物質などについて形態学的生理学的の解明がすすむ中、更なる分子生物学的研究の成果がまたれる。
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8) 生田義和: 反射性交感神経性ジストロフィーの治療. 関節外科 22: 47-57, 2003
9) 江刺家 修: 肩手症候群に伴う拘縮. 理学療法 12 (2): 114-118, 1999
10) 堀内行雄ほか: 反射性交感神経性ジストロフィーの病因と病態. MB Orthop 8 (5): 9-17, 1995
11) 宗重 博: 上肢の疼痛性疾患 (RSD). 新図説臨床整形外科講座(第6巻)/前腕・手 (平沢泰介編), メジカルビュ−社, 106-112, 1995
12) 沖永修二: カウザルギーと反射性交感神経性ジストロフィー. 整形外科クルズス第4版, 南江堂, 416-419, 2003
13) Veldman PHJM et al: Signs and symptoms of reflex sympathetic dystrophy: prospective study of 829 patients. The Lancet 342:1012-1016, 1993
14) Ben Greenstein & Adam Greenstein: Color Atlas of Neuroscience, Neuroanatomy and Neurophysiology. 大石 実 (訳): 侵害受容 (1): 痛覚経路 (pain pathway). カラー図説 神経の解剖と生理. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 東京, 2001
15) 小川 龍: 疼痛発生機序 -交感神経の役割-. 日本腰痛学会誌 7 (1), 10-18, 2001
16) 横田敏勝: 鎮痛機構 臨床医のための痛みのメカニズム. 南江堂, 東京, 71-90, 1997
17) 関根・藍澤陽子, 西道隆臣: 脳の機能を担うシグナル伝達メカニズム. 神経伝達物質の代謝と作用機構 -神経ペプチドを中心として-. イラスト医学&サイエンスシリーズ わかる脳と神経 (石浦章一編). 羊土社, 東京, 1999